神経回路学会誌 (2002) Vol.9 No.1

編集後記

 

一年来推敲を続けてきた自著数理本の原稿が完成に近づいた(「脳のデザイン」に次ぐ大作です.乞うご期待).それと同時に久しぶりに研究がのってきてあれこれ熱中することが多いこのごろ.時折はこのようにテンションがあがるのも楽しい.

ただし書きたいと思っていたモンゴル紀行文はそんな事情もあって書く余裕がありませんでした.ロシア的なウランバートル市街,モンゴルの草原,一緒に歌ったロシア民謡,と夏の一週間でいろんな思い出ができました.科学研究交流でもいろいろ考えさせられることが多かった.西欧的世界からすこし離れた空間にいると,人間はどこから来てどこへ行くのか,という根元的な問いが浮かんできます.

ちなみに私は大学の第二外国語でロシア語を習い,学生時代に初めて行った外国がロシア(当時ソ連)でした.秋のイギリスのワークショップでは美人のロシア人研究者と知り合って,彼女から毎日ロシア語を学びました.そういうわけで2001年は不思議にロシア語に縁がありました.ともあれ,まだロシア語を頭に入力できる.自分の脳に可塑性が残っていることにうれしい驚きを感じます.私はいわゆるボキャ貧で言語障害ぎみ.日本語もあまり得意ではないし,外国語は言うまでもない.しかし下手でもたくさん話す.しゃべることが好きです.会話は入れ物よりも中身.研究もそうでしょう.メッセージのない論文は書かないこと.

今回の神経回路学会誌はメッセージがたっぷり入っていることを願っています.なまの神経科学への回帰,というテーマを考えて巻頭言は櫻井さんにお願いしました.櫻井さんの心の中のドロドロは彼の研究の推進力ですね.若者もこれくらいの世界を持ちたいものです.彼くらいになると文章を書かなくても顔を見ればメッセージが分かる.巻頭言はやめにして,写真だけの「巻頭顔」にしようかと提案したくらいです.

今回は編集担当で原稿集めにすこし苦労しましたが,そのぶん取り立ての醍醐味を味わいました.以下,櫻井さんとのメイル交信記録から.

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篠本:原稿は絶対今週中.血を吐いても書いてください.

櫻井:ちょ,ちょ,ちょっと待って。31日が締め切りだったでしょ?

篠本:そんなこともあったかもしれない.しかし時代はつねに進んでいます.諸行無常.

櫻井:悪徳金融に捕まるとこれだからなあ・・・。22日夕方までに送りますう・・・。

篠本:おら,おら,おら,あと2日だぜ.ひっひっひ.

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(篠本 記)