日本神経回路学会誌 vol.10 pp222 (2003)

 

神経情報科学サマースクール NISS 2003 「優等生スクール」 

 

京都大学 理学研究科 篠本 滋 

 

NISS2002NISS2003の2回にわたり,名ばかりのディレクターをやらせていただきました.校長の銅谷さん,実質運営者の石井さん,もう一人の実質ディレクターの深井さんらの仕事を去年に引き続きオブザーブする(つまり,じゃまはしないが何もしない)というスタンスを貫きました.とはいえ,今年は少し責任を感じて開校1日前にイギリスから帰ってきて,ジェットラグを感じながらも最初から最後まで完全参加.議論だけはしっかり参加しました.

 

主な講義は3時間をあててみっちり議論しようという提案をしましたが,この方針は正しかったと思います.全ての講義がすばらしかったですが,とりわけ金子さんによる「大脳の局所回路」,平野さんによる「小脳の局所回路」は圧巻で,教科書では味わえない迫力もあり,スクール生徒よりもシニアスタッフのほうが勉強になったのではないかというくらいでした.生徒の質問も活発で3時間の講義時間も足りないほどでした.

 

完成度の高い講義に出来のよい受講者がむらがっている,という申し分の無い状況に,ぼくだけはなぜか一抹の違和感を感じました.人の世界というのはある程度バカがちりばめられているからおもしろいのさ,などという妙な世界観をもって自分を安心させてきたこのぼくとしては,この異常な状況にはすこし落ち着けないということかもしれません.実際,理論の講義をした加藤さんは,にやにや笑いながら「篠本さんはもうすこし変なのが混じっている方が好きなんでしょう?」といってました.

 

外国からはMiguel A. L. Nicolelisさん,Dietmar Plenzさんが招聘されて各自3時間の講義を行っていただきました.サマースクールの前から,某氏から送られてきた「ニコちゃんレポート」を読んで「ニコちゃんはラテンや」というイメージを植え付けられてしまっていたぼくは,すこしバイアスのかかった目で彼を見ようとしていたのですが,あにはからんや,Nicolelisさんの研究のすごさに圧倒され感動してしまいました.この迫力に対して「ニコちゃん」と呼ぶのは失礼というものです.せめて「ニコさん」と呼んでほしかった.Nicolelisさんの研究の構想の大きさ,スパイク計測の圧倒的な量など,日本はずいぶん水をあけられたなあ,とおもいました.焦りを超えて感慨に近い心境になってしまうあたりにその物量的な差の大きさを実感します.何とかしなければ,,,.

 

今回サマースクールの「短期研究課題」は,前もってテューターをつけて,テューターによるガイドの下で課題に取り組む,という方針を提案しました.荒唐無稽なものが無くなった反面,少し型にはまったスタイルが多くなった感もありますが,何事にも一長一短はあるので年によっていろいろ試してみるのがよいかと思います.今年は具体性のある研究がよくまとまっていたと思います.もう少し発展させれば論文にもできるのではないか,と思わせる研究もいくつか現れました.

 

今回は前回に比べるとさらに「優等生スクール」となった印象があります.きっとこの中から次世代を担う人物が輩出するに違いありません.その後に開かれた神経回路学会全国大会JNNS2003ではプログラム委員長を務めていたのですが,そこではすでにこのサマースクールで育った若手が活躍するようになっており,そちらも大成功でした.このサマースクールの構想を長年推進してきた塚田さんの慧眼にはいまや頭が下がる思いです.このサマースクールは銅谷さんを中心とした実行委員の周到な計画,石井さんを中心としたNAISTのメンバーの綿密な準備に支えられてきました.これらの方々に感謝したいと思います.