神経回路学会誌(2002)Vol.9 No.4

神経科学の梁山泊 (神経情報科学サマースクール NISS 2002

 

京都大学 理学研究科 篠本 滋 

 

塚田さんが例の口調で「篠本,ディレクターをやれ」というので,塚田画伯の絵をもらうことを条件に了解したというわけでして,ぼくは今年は深井さん(本当のディレクター)と銅谷さん(実質責任者)の仕事をオブザーブする(つまり,何もしない)と宣言していたのです.

 

サマースクールには途中から参加.ちょうどMATLABの講習中であったのか,若者達が黙々とパソコンに向き合っていて,入ったときはなんだかくらい雰囲気だなあ,という印象でした.セミナーが始まってみますと,あにはからんや,若者達の元気のいいこと.質問,コメント共によく出てにぎやか.実は自分が一番やかましいのですが,若者がやかましいのも頼もしくてうれしく思います.深井さんが綿密に調査して優れた講演者をお呼びになったことが成功の原因でしょう.

 

外国からはGuo-qiang Biさんが招聘されていましたが,例のSTDPの研究はたいへん立派な仕事で,感銘を受けました.いろいろやかましく質問をしていたので彼もこちらに興味を持ったようです.セミナーの後に話しかけられたので「いやぼくは単なる物理屋で」といったら彼が「ぼくも物理の出身です」と妙に意気投合.参加の若者達も彼の講演に興味を持ってはいたようですが英語となるとちょっと口を出しづらそうです.ぼくも英語がうまくないのですが,でたらめでもしゃべる.次回サマースクールは「下手な英語をしゃべる方法」についての講演でも誰かに頼みましょうか.ただしこれからの若い人は英語力そのものを向上させて上手な英語をしゃべってください.

 

最終日「仮想研究課題」は心底楽しみました.若者達は夜ごとに集まり議論をし,前夜はほとんど徹夜で望んだそうですが,疲れは見受けられず,目が輝いていました.未熟さも見え隠れはするのですが,若者達の斬新な発想や発表スタイルには感銘を受けました.産業技術総合研究所から参加の神経生理学者の北澤さんもたいへん感心されて,いまにも研究テーマにできそうなアイデアもあるとの評でした.

 

梁山泊のような楽しい集まりになったのも,銅谷さんを中心とした実行委員の周到な準備に支えられています.ネットワーク環境などのインフラ整備もたいへん助かりました.参加した若者達もこの梁山泊がよい思い出になったものと思いますし,そこで築き上げた友情は宝物になるでしょう.来年はこんなにすばらしいサマースクールを企画できるでしょうか.若手中堅にも頼ることを考えながら案を練っていきたいと考えています.来年は銅谷さん提案のテーマ「脳の局所回路」を軸に考えを進めていきたいと思います.来年も元気な若者の参加を期待しています.