脳のセミナー　

---------------------------------- 第５６回 -----------------------------------

演者：菅生康子氏（産業技術総合研究所）

題名：状況に応じた視覚刺激と報酬の連合と側頭葉の情報処理

要旨：状況に応じて柔軟に複数の事象を関連付ける「連合」の能力は生存や社会行動に重要である。視覚刺激と報酬の連合では、特に視覚刺激と報酬あるいは無報酬の連合関係が逆転する行動課題においてサルの内側側頭葉の嗅周囲皮質が必須であることが破壊実験により示唆されている。しかし、視覚刺激と報酬/無報酬の連合関係が状況に応じて変化する場合に、嗅周囲皮質のニューロンが視覚刺激や報酬/無報酬の情報をどのように表現し、視覚刺激と報酬の連合に関与するのかは明らかでなかった。我々は、同じパターン刺激が、その直前に提示される色刺激によって「報酬あり」か「報酬なし」に関係づけられる行動課題を用いて、パターン刺激呈示中の嗅周囲皮質の単一ニューロン活動を記録した。その結果、課題関連ニューロンの約半数が報酬の有無の情報を表現していることが分かった。同じ視覚刺激を見ても、状況が異なる場合には異なった意味合いとして柔軟に認識するために行われている嗅周囲皮質における情報処理について考察する。

日時：２０１３年１０月０１日１４：４５-１８：００　

場所：京都大学医学部C棟4階セミナー室

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電総研で上司であった河野さんが菅生さんを紹介．恒例の私の研究人生：学部・修士は東大動物学科．修士課程で心理学の授業を聴講し人間の行動を理解したいと思い，博士課程では東大医学研究科の上野教授，電総研（産総研）の河野さん山根さんの指導を受ける．河野さんたちと，視覚情報が脳内で大まかな分類から詳細な分類へと時間的に移行する過程を分析された研究が初期代表作．結婚されてご主人がワシントンDCに留学されるのを機に渡米し，NIHのBarry Richmond教授の下で「報酬に基づく動機づけ」についての研究を開始．一貫したモティベーションは「脳のどこでどのように，なぜ，生存に必要な視覚情報を記憶できるのか」．

菅生さんが視覚刺激と報酬の連合に働く箇所として調べておられる嗅内皮質(entorhinal cortex)，嗅周囲皮質(perirhinal cortex)について

外山「宮下君と同じところをやっているとは全く知らなかった！」

Higuchi & Miyashita論文ではそれらの領野を視覚刺激の連合の要所としているのに対して，菅生さん達は視覚刺激と報酬の連合の要所としています．

２つの研究は互いに矛盾しないにせよ，「同じ所でも違う見方で見ると違うようにみえる」，ということでしょうか．

金子「扁桃体を破壊するとサルの性格が変わりませんでした？　クリューバー・ビューシーになるとヘビにも怖がらなくなる」

菅生「それが，，破壊するといい子になりました．．．」

金子「怖さの感覚が麻痺しているからかもしれない」

篠本「このあたりの人（外山・金子）も扁桃体がこわれているから怖さを感じないんでしょう」

金子「おまえはどうなんだ」

嗅周囲皮質を破壊すると状況に応じて連合が変化する学習が出来なくなるそうです．菅生さん達は，一様色刺激を見せたあとに特徴のあるパターン刺激を見せ，その組み合わせに応じて報酬が異なる状況においた場合の嗅周囲皮質の神経活動を計測．先に見せた色刺激を「状況」，パターンと報酬の組み合わせを「連合」と見立てて，状況に応じた連合の変化と解釈．ニューロンのカラー選択制，パターン選択制，報酬の有無に対する反応潜時をしらべて，脳内の情報統合のダイナミクスを推論されています．

Discussionのスライド：「カラー・パターンの組み合わせの情報をどう表現しているか，本当に表現しているか，本研究のみからまだ言い切ることはできない」

篠本「これは（自分で自分の結論が不完全であると告白する，という）類を見ない独創的なスライドだ！」

セミナー中，外山先生がコメントを発する度に，菅生さんは「なるほど〜．そうですね〜．」と言いつつ壇上でメモをとり続けていましたが，ここまで柔軟な発表者もみたことはありません．個性的！

セミナーの休憩時間にSさんをみつけた外山先生「Sさん，いましたか．．．」

アフターセミナーでは菅生さんの3人の子育てやFさんの双子の子育てなど，子育てしながら活躍する女性の話題で盛り上がりました．

実はそれ以外にも別の話題で異様に盛り上がりましたが，記録には残しづらい話題なので抹消．