脳のセミナー

---------------------------------- 第55回 -----------------------------------

演者:磯田昌岐氏 (関西医科大学医学部)

題名:自他関係の枠組みのなかで行動制御の神経機構を理解する

概要:麻酔マカクザルを用いたシステム生理学研究の発展により、状況依存的な行動制御の神経機構が明らかにされてきた。しかし、従来研究におけるそのような「状況」とは、集団から隔離抽出された個に対して設定される行動文脈であり、社会的要因 ―あるいは他者要因― を扱うものではなかった。本研究は、行動制御における他者要因の重要性に着目し、自他関係の枠組みのなかで認知、情動、運動の神経機構を解明しようとする試みである。我々が己をよりよく知るには他者が必要であろう。そもそも自己や私という概念自体が他者抜きには成立しない。自己の身体特性、感情特性、思考特性、行動特性などから構成される包括的自己像(いわば自己意識)も、自己の「内部」のみにおいて決定されるというよりは、他者との比較、他者による評価、あるいは他者からの期待を通じて社会的に形成され、同時にそれらを通じて絶えず変化する。他者や他者との関係性は、我々の思考、感情、動機づけ、行動発現に影響を及ぼす。本研究は、マカクザルに対し身体的他者の存在下に認知・情動・行動制御を要する実験課題を行わせ、その課題実行においてはたらく神経機構をシステム生理学的アプローチによって明らかにすることをめざしている。特に、他者の行動、他者の報酬、他者の視線に関する情報が脳内でどのように処理され、それが自己の行動をどのように修飾するかに興味を持ち、現在研究を進めている。これらのなかから、今回のセミナーでは自他の行動区別、他者の行動への注意とモニター、他者の行動情報の利用に際し、前頭葉内側皮質の細胞がどのように使われているかを紹介する。

日時:2013年07月30日14:30-18:00

場所:京都大学医学研究科A棟1階A103室

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磯田「この伝統ある会によばれるとは思っていませんでした.以前から外山先生とお話ししたいと思っておりました」

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高校3年生の時,知り合いからもらった東大医学部の伊藤正男先生の退官記念講演記録を宝物にしていた磯田さんは,やがて医学部に入学・卒業して神経内科勤務医になる.神経内科では,随意運動をしようとすると不随意運動が生じてしまうという症状の患者に出会い,「随意運動とは何か」という疑問をいだき,基礎研究をやりたいと思い至ったそうです.神経内科医をやってから基礎に移ることについては反対も多かったが,初心を貫いて,まず東北大学丹治先生に師事し,つぎにNIH彦坂先生,OISTでのPIを経て関西医科大学医学部第二生理学教室准教授に至る.ところで,基礎研究を学ぶにあたっては,学びたい先生として丹治,彦坂を含む3人の研究者があって,各研究者の論文を読み込んでその人となりを推定したそうです.後にその推定に大きな誤りはなかったとの確信を持ったとのこと.この戦略と念の入れ方は見事.若者はぜひ参考にしてほしいものです.

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他者の行動は他者の心理状態を推定する窓である.他者の行動を通して自分の取るべき行動が推定できる.これらの前提のもとに,他者の行動に関する神経相関活動を探索する研究を展開されています.他者の行動を反映する神経細胞にはselfothersを重ね合わせるmirror neuronsselfothersを区別しようとするmentalizing neuronsというものがあると考え,自己行動に反応するself-action type neuron,他者行動に反応するpartner type neuron,その中間に自己行動,他者行動に等しく反応するmirror type neuronがあるというように磯田さんは分類します.データ分布そのものに分類構造があるのか,分類が恣意的なのかについては議論になりました.

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磯田「自分の正解に加えて相手の正解に対しても報酬をもらえるとした実験条件で,相手が間違った場合に反応するニューロンが見つかりました」

篠本「自分が間違う場合に,自分が間違うかもしれないと反応していたニューロンはありませんか」

磯田「そういうニューロンは見つかりません」

外山「自分が間違っていることがわかっていながら間違えるのは篠本君くらいだ」

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磯田さんの仮説は「外界の状況変化のdetectionMFC convexity regionが担っていて,そのdetectされた情報を行動に利用しようとするのがMFC sulcus region」というもの.

外山「この研究は良いが,行動と神経活動の相関に関する情報という観点を入れて定量することが望ましい」

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アフターセミナーでは磯田さんが神経内科医であったこともあり,医師・医療の話題で盛り上がりました.議論はとても面白いのですが人様には聞かせられないような発言が相次いだので記録抹消.

磯田さんの目つき,話し方,人生戦略などすべてが篠本を上回る変人ぶりであると確信したのですが,外山先生を含め誰も認めてくれませんでした.しかしともあれ,かなりなレベルの変人新人が現れました.今後が楽しみです.ぜひ脳セミの変人集団に加わって頂きたいですね.

さて,酒の席ではいつも篠本が外山先生にしごかれたことが酒の肴にされます.

篠本「外山先生からは殴る蹴るやられたようなものです」

外山「(物理的に)頭を殴ったわけではない.情報的に殴った(笑)」

Sさん「どっちが痛いのだろう...」