脳のセミナー

---------------------------------- 第52回 -----------------------------------

演者:細谷俊彦氏 (理化学研究所 脳科学総合研究センター)

題名:大脳新皮質の新しいモザイク構造

日時:2012年10月2日14:30-18:00

概要:大脳新皮質は脳の大きな部分を占め、感覚、運動、記憶、行動計画など様々な高次精神機能を担っています。このため、大脳新皮質の回路がどのような情報処理を行っているかを知ることは神経科学の大きな目標の一つです。大脳新皮質の神経細胞は数百種類程度あると考えられており、これらが作る回路の構造については不明な点が多く、このことが大脳新皮質理解の大きな障害になっています。もし大脳新皮質の回路に小規模な単位が規則的に繰り返した構造があれば、繰り返しの1単位を詳細に解析することにより回路全体への理解が深まると考えられます。私たちは、遺伝子工学と統計解析を用いた手法により、(1) 大脳新皮質第5層の主要な出力神経細胞が微細なカラム状の配置をとっている、(2) こららの微小カラムは周期的なモザイク構造を作っている、(3) 同一の微小カラムに含まれる細胞は互いに関連した活動を示す、(4) この構造は大脳新皮質のほぼすべての領野でみられる などの知見を得ました。これらの結果は、大脳新皮質回路に小規模な機能的単位が繰り返した普遍的なモザイク構造がある可能性を示しています。このような構造が持つ機能的意義について議論します。

場所:京都大学医学研究科A棟1階A103室

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細谷さんの「私の研究人生」:東大物理の出身で,学生時代には「京大蔵本先生の研究にも興味をもっていた」とのことですが,大学院は東大生物物理の堀田研に進み,そのあとハーバード大学のマーカス・マイスターのところでポスドク,その後,理研の脳科学センターPIにいたる.堀田研ではショウジョウバエの神経幹細胞からニューロンやニューログリアがうまれていく過程を研究されました.

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ショウジョウバエでは細胞一個のレベルで時空間的に細胞をうむことが決定されているそうで,それならマウスやサルにはそれ(決定論)はないのか,という興味をもたれたそうです.

篠本「私と外山先生は同じ神経回路か?」

外山「このショウジョウバエは純系.こちらは雑種どうしだ」

金子「あなた(篠本)は特に雑種!」

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次はハーバードにて網膜による画像符号化の適応的な調節についての研究.

外山「これをやったときは何をねらってやったんですか?」

細谷「古くから知られていた明順応,暗順応はいわば一次統計で,マーカス・マイスターが明るさの時間変化に対する順応,いわば二次統計に注目しました.それを時空間に拡張しました」

外山「ショウジョウバエでは決定論,網膜では順応となると一貫性がない.一貫しているのは何なのか」

細谷「つじつまは後で考えることにして,まず話をすすめます」

次は理研にて大脳皮質の精密な3次元構造の研究.マーカーを使ってセルタイプを分類したら5層に最小単位の繰り返しがみえた.皮質の構造はrandomstereotypeか,ということに興味をもった.

最後は機能的意義を確立することが目標になるでしょうが,研究は結晶解析に近いので,物理屋としては聞いていてほっとするような話でした.

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アフターセミナー:今日も珠玉の外山語録.今回の名言は「ランダム・ワーク」!

 

外山「イントロは,人生を語って,学問を語って,そして『その延長線上に今日の話がある』という風に話さないといけない.人生を通して一貫したものがあるはずだ」

篠本「人生そんなに一貫しているわけではないでしょう」

外山「篠本君はrandom walk,というより,random workをしている」