脳のセミナー

---------------------------------- 第50回 -----------------------------------

演者:柴田和久氏(ボストン大学/ATR

題目:視覚野活動パターン制御によって知覚学習を引き起こす

日時:2011年12月20日(火)14:30-18:00

概要:徹底した視覚課題の訓練によって,大人でも視覚能力の向上が起こることが知られています.視覚知覚学習と呼ばれるこの学習に初期視覚野が関わるのかどうか,これまで激しい論争がありました.論争が続いていた主な原因のひとつとして,従来の研究は,視覚能力の向上と脳活動の異間の相関を調べるにとどまり,初期視覚野の活動の結果として知覚学習が起こるのかについて言及してこなかった点が挙げられます.視覚知覚学習が初期視覚野の活動の結果起こるかを調べるために,われわれは機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いた脳活動フィードバック法を開発しました(Shibata, Watanabe, Sasaki, and Kawato, Science, 2011).Decoded fMRI NeurofeedbackDefNef)とわれわれが呼んでいるこの方法を用いて,被験者はフィードバックをてがかりに,自分で自分の初期視覚野脳活動パターンを特定の方位(ターゲット方位)を持つ縞模様によって誘起されるパターン(ターゲットパターン)に近づける訓練を行いました.この訓練の間,実験の目的やターゲットパターンが何にもとづいているかについて,被験者は一切自覚的ではありません.DecNef訓練を数日間行った前後で,被験者の縞模様方位判別課題成績を比較すると,ターゲット方位に対してのみ,課題成績の有意な向上が認められました.さらに,初期視覚野活動パターン制御のうまさとターゲット方位に対する視覚感度の向上度合いの間に,顕著な相関関係が見られました.これらの結果は,視覚刺激なしでも,ターゲットの脳活動パターンが何にもとづいているかの自覚が被験者になくても,特定の視覚特徴に対応する脳活動パターンの繰り返しだけで知覚学習が起こることを示します.

場所:京都大学医学研究科C棟4階セミナー室

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外山先生による紹介「柴田さんは川人光男さん、石井信さん、山岸紀子さんのところで育って,計算論と心理学のdouble backgroundをもっている.今回はScienceに論文が出たばかりでホットな話を聞けるのが楽しみ」

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柴田さんは弱冠31歳の若い研究者で,サッカー,推理小説,ピアノ,コーラスと広い趣味があり,子供の頃は勉強にはあまり興味はなかったそうです.大学生の頃に川人さんの「脳の計算論」を読み,この先生のもとで学びたいと思い,奈良先端大に進学.そこで山岸さん神谷さんたちのレベルの高さに衝撃.その後Watanabe Takeoさんの著書「Perceptual learning without perception」を読んで「なんだかドキドキして」この先生と仕事をしたいと思い渡米.研究テーマについては「ドキドキできるトピックをその都度選択している」とのことです.

 

視覚知覚学習 visual perceptual learning において視覚訓練後の課題成績向上は,視野,特徴,目に特異的という specificity がみられるが,知覚学習に低次の視覚皮質が関わっているかどうかについて長い間論争があり,それに答えを出すのがこの研究の目的.ガボール縞模様の方位に対する初期視覚野の100個オーダーのvoxelの活動パターンを調べ,そのパターンを目標状態として,近い活動パターンが出せたら報酬を出すというタスク.

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伊藤「perception は無くても物理的な transmission はあり得るのでは..」

外山「今は質問をする段階ではない」

篠本「方位の傾いた線分をイメージしたら活動が出ますか?」

柴田「そういうことを考える人は被験者に使っていません(笑).うまくいった人にどうやったか聞いたところ『注視点をじっと見つめるとうまくいく』と答えるケースはあります.被験者は与えたターゲット方位をあてられないことからみて,自覚的には認識できていない」

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柴田さんが結論を「低次視覚皮質の活動は視覚知覚学習を引き起こすのに十分である」とまとめたところ,外山先生が猛然と反論.

外山「こういうステートメントは神経科学では当たり前で,こういうことを言って驚くのは心理学者だけ.『強化学習のパラダイムでbiofeedbackを起こした場合』という注をつけないと意味がない.」

金子「この研究は『本人が思っていないことを誘導できる』というところが面白い.全く知らないうちにスキルを身につける,マインドコントロールにつながる.この研究の本当のおもしろさはそこだ」

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アフターセミナーではみな弱冠31歳の柴田さんの情熱を褒め称えていました.

金子「『ドキドキで方向を決める』というのは正解だ」

外山「それが研究者としての才能だ」

柴田さんは脳セミのウェブによく登場する「Sさん」が誰かわからず,誰なのか何度も聞いていました.その結果,今回も来なかったSさんのことで盛り上がりました.Sさん,来ないと何を言われるかわからないから来た方がいいですよ.