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脳のセミナー第48回
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演者: 宇賀貴紀氏(順天堂大学医学部)
題目:知覚判断における判断の柔軟性の神経メカニズム
日時:2011年10月4日(火) 14:30−18:00
場所:京都大学医学研究科A棟1階セミナー室 A103室
概要:状況に応じて柔軟に判断をし、多様な選択を行うことはヒトの重要な認知機能のひとつである。このような柔軟性の一部は、長期にわたる学習によって獲得され、その神経基盤としてシナプスの可塑的変化が対応すると考えられている。しかし、速い判断の切り替えはシナプスの可塑性では説明できず、短時間でダイナミックにスイッチする神経回路を必要とする。私はこれまで知覚判断のメカニズムの研究を進めてきた経緯から、運動方向の判断課題と奥行きの判断課題の両弁別課題をランダムに切り替えるタスクスイッチ課題をサルに訓練し、素早い判断の切り替えメカニズムの解明に挑戦している。これまで、運動方向の弁別、奥行きの弁別、それぞれに特異的に使用される感覚ニューロン群を使い分けることで判断の切り替えが実現されていることを発見した(Sasaki & Uka, Neuron, 2009)。本講演ではさらに、スイッチ機能の作用機序として、一度貯めた情報を時間と共に廃棄する方法(Leaky integrator仮説)を新たに提唱する。
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河野さんが宇賀さんを紹介:東大医学部卒業後,「(河野さんのいた)電総研に来るかと思っていたら阪大の大学院にいった」という紹介で,河野さんにしては珍しく愚痴っぽい紹介でした.東大医学部の後輩が電総研に来なかったことを残念に思っていたようですね.宇賀さんは脳のセミナーに呼ばれたことを「怖い反面うれしく思っています」:そう言っていただければ我々もうれしいですよ.
恒例の「私の研究人生」:東大医学部の「フリークオーター制」で東大脳研の伊佐さん北澤さんのところに.そこで「The Computational Brain」を読んで視覚意識に興味を持つ.その後大阪大学の藤田ラボの大学院.そこで物体視経路のIT野で両眼視差に反応するニューロンを発見:「若い人へのメッセージは,データをしっかり見なければいけない,ということです」.その後Bill Newsomeにあこがれ,渡米について本人に直接あって相談.向こうの都合もあってその弟子のGreg DeAngelisラボに行き,両眼視差認識へのMT野ニューロンの寄与の研究.その後順天堂大学医学部准教授となり,現在は判断の柔軟性メカニズムの研究に取り組んでおられます.
宇賀「MT野シングルニューロンでも当のサルの行動より弁別能力が高いものがある」
篠本「他のニューロンがノイズとなって邪魔をして判断能力が落ちるんだな」
金子「ノイズって篠本のことよ」
後半戦は最近取り組んでおられる「判断の柔軟性の研究」の紹介.同じ感覚情報から異なる判断をする.事前の手がかり刺激に応じて,視覚刺激の奥行きか動きのどちらに応答すべきかを換えなければいけないタスク.
外山「単にやりました,では面白くない.こういう研究は結構あるから,そこで何が新しいのか,先行研究に対してどういうadvantageがあるのか」
現在要求されていることが奥行き情報か動き情報かの如何に関わらず同じ反応をすればよいという組み合わせに「congruent」な反応をしめすニューロン群とincongruentな群に分けるというのは面白い発想だなと思いました.
そのあと果敢にも「Leaky integrator model」を用いた説明を始める宇賀さん.その冒頭に
宇賀「一番つっこみどころ満載なので,どうぞご自由に」
予想通りきびしい突っ込みにあいました.
外山「やりっ放し,言いっぱなしのモデルはなんにもならない」
篠本「賛成」
外山「わかって言っているなら許せるが,わかって言っていないなら許せない」
前列のうるさい聴衆(講演者よりたくさんしゃべっている)からこういう激しい反応が出るのは予想しつつも,やっぱりつついてみたいというのが宇賀さんの本心かな.
アフターセミナー:
外山「受賞祝いの会では誉めたが,この真剣勝負の会(=脳セミ)は違うからね」
研究者の最近の動向についていろいろ盛り上がりました:
外山「■さんはバックボーンがない」
篠本「ぼくはあるな」
外山「篠本君はボーンはあるがバックがない」