脳のセミナー
---------------------------------- 第42回 -----------------------------------
演者:坂井克之氏(東京大学 大学院医学系研究科 認知・言語神経科学分野)
題目:ヒト脳における領域間信号伝達効率
日時:2010年6月22日(火)14:30−18:00
場所:京都大学医学研究科A棟1階セミナー室 A103室
概要:健常人を対象とした非侵襲的脳活動計測実験で、脳の働きにどこまで迫れるでしょうか。ある課題を行っているときに脳のどの部分が活動しているか、というbrain mappingのアプローチは、動物実験を行っている人間にとって、どこに電極を刺せば良いかという手がかりを与えてくれます。ではヒトを対象とした研究は、所詮、動物実験のしもべに過ぎないのでしょうか。あるいはヒトにしかできない課題に逃げるしかないのでしょうか。本セミナーでは、局所脳領域刺激によって誘発された脳電位を計測することにより、脳領域間の信号伝達効率が課題異存的に変化する、との実験データを紹介し、健常人を対象とした研究が一矢を報いることができるのではないか、というお話をいたします。
外山先生による紹介「坂井さんのことはよく知らないが,たぶん東大医学部神経内科の出身で...」といいながらも,かなり詳しい研究紹介をされました.
外山 「fMRIの話しは,排気ガスを調べてエンジンを語るようなもので,あまり好きじゃない.坂井さんの偉いところは,その方向の研究をやりながらもそれを意識しているところだ」
恒例の私の研究人生:坂井さんの研修医時代:かわいらしかったんですね.「高次機能はあまり好きじゃなかった.末梢神経などのパチパチ音が好きだった」「彦坂さんの低音の声にひかれて高次機能をやることになった」「イギリス留学中に,まだ医師になるか研究者になるかを決めかねていたが,ニューヨークでマーラーの「復活」をきいて興奮した直後に東大医学部のポストの話しがあって研究者の道をえらんだ」,と,坂井さんというのはどうやら人生を決める瞬間に音が決め手になってきたようですね.
人を対象とした研究で何か新しいことが出来ないか,というスタンスでfMRI研究に着手.オックスフォードのPassighamのもとで,課題に応じて領野間の相関が変化するという研究を行ってこられました.それに操作性を加えるという方向性として,TMS evoked potential (経頭蓋磁気刺激誘発電位)を測る研究を選ばれました.
外山 「磁場変化に対して電流はどう流れるの?」
坂井 「こっちか,こっちですね(笑)」
同じTMS刺激に対して,反応部位がタスクに応じて変わる.反応が現在のタスクではなく,直前のタスクに相関して変化するという,興味深い現象を発見されていますが,これをコネクションの変化として解釈を試みる坂井さん.
篠本 「結果はとても面白いけど,その原因をコネクションに追いつめることが出来るの?」
外山 「精密なことは言えない仕事なんだから」
篠本 「hidden stateに変化が起こった,という言い方ならわかる」
坂井 「state... stateってなんですか?」
外山 「stateってのは,脳の状態,のことだ(笑)」
外山 「ここで坂井さんが言うコネクションというのは,心理学的コネクションで本当のコネクションではない」
Sさん(*) 「...」
外山 「心理で『あの人とつながっている』というのは,つながってなくてもいえる」
Sさん 「...」
外山 「心理(シンリ)のコネクティビティというのは,真(シン)のコネクティビティとは違う」
Sさん 「...」
とまあ,かなり厳しい応酬でしたが,安易に迎合せず,コネクションへの思いにこだわった坂井さんの心意気は大したものです.
(*)誤解の無いように申し添えますが,ここでいう「Sさん」とは,坂井さんでも篠本でもありません.
現在進行中の研究については外山先生,金子さん,篠本も「これはうまくいけばいい仕事になる」と高く評価.坂井さんは「(この3人の)評価のツボがよくわからん」と首をひねっておられましたが,きっと良い研究になりますよ.
コネクションへの思いについて,Sさんは「坂井さんと同じ立場です」といっていましたが,坂井さんがこだわろうとしているのは「真のコネクティビティ」であるのに対して,Sさんの言っているのは「心理のコネクティビティ」で,やはり違うように思います.でも,篠本とSさんは友情で「心理的につながって」いますからご心配なく.
アフターセミナーでは相変わらずの盛り上がりをみせました.T大学のT教授の絵は皆絶賛.医学部の連中は二次会に向かいました.