脳のセミナー

---------------------------------- 第41回 -----------------------------------

演者:礒村宜和氏(玉川大学科学研究

題目:「運動発現皮質回路機構

日時:2010年5月11日(火)14:30−18:00

場所京都大学医学研究C棟4セミナー

概要: 従来単一ユニット記録はさまざまな機能関連する脳領域特定することに大きな威力発揮したものの、記録した神経細胞のサブタイプの同定をおこなうことは不可に近かった。そのため、運動機能に関しても、大脳皮質運動の異なる神経細胞サブタイプが実際にどのような機能役割を担っているのかほとんど解明されていない。近年単一ユニット活動記録詳細細胞形態観察できる細胞記録juxtacellular recording開発され、多数神経細胞発火活動同時記録できるマルチユニット記録multiunit recording大幅改良されつつある。そこで我々は、運動課題訓練したラットにこれらの記録技術適用し、運動発現関与する運動神経細胞機能かつ形態的に同定して、大脳皮質神経回路機構解明することを目指してきた。まず、頭部を脳定位固定装置固定した複数の被検ラットにレバー押し課題訓練効率よく施す「脳定位固定オペラント訓練装置」を独自開発し、訓練完了ラットを毎週2頭の割合記録実験安定して供給する体制確立した。このような被検ラットをもちいて、運動前肢領域から細胞記録により課題関連した単一細胞活動記録し、同時シリコンプローブをもちいたマルチユニット記録により近傍にある複数細胞活動記録した。細胞記録中にニューロビオチン電気浸透的に負荷した記録細胞は、灌流固定後に介在細胞マーカーであるパルバルブミンやカルレチニンとの蛍光三重染色を施し、次いでABC-DAB法により細胞形態構築した。その結果課題遂行中のラット74頭の運動から運動関連活動を示す多数錐体細胞介在細胞可視成功した。錐体細胞は、運動の各局面(準備開始実行など)関連する発火応答を示すものが全層(-6層)にわたって観察された。すなわち、運動情報は「層から層へ」ではなく「全層一体になって」処理されることが示唆された。一方、パルバルブミン陽性fast-spiking (FS)介在細胞のほとんどは運動実行のみ発火活動上昇し、錐体細胞が伝える運動指令の「開閉」(ゲーティング)ではなく、錐体細胞協調して運動実行指令の「形成」(シェーピング)をおこなっていることが示唆された。さらに、マルチユニット活動解析からは、運動機能に異なって関与する神経細胞間で同期発火活動がみられることも判明した。そして、新たに追究すべき疑問が浮かび上がってきた、、、 「点」から「線」へ、そして「流れ」へ、生理教科空白を少しでも埋めるような研究を目指している。

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恒例の私の研究人生:阪大医学卒業して,京大医大学院都立神経研,Rutgers大学,理研を経て,この2010年から玉川大学科学研究教授弱冠38歳ながら哲学のある礒村さんです.

 

脳の部品であるニューロシナプス特性を調べる研究に携わりながら「脳の構造機能を知りたい」という思いで,これまで変遷があり,やがてRutgers大学留学

Gyorgy Buzsaki教授研究スタンス行動ネットワーク活動関連を調べる,細胞サブタイプを推定する,細胞機能結合推定する,に共感し,大いに影響を受けたとのことです.

Buzsaki研にて皮質海馬徐波関連活動を調べた研究統合脳班会議発表したところ,外山先生から「でも,これ,麻酔でしょ」と批判され,この一言一念発起して今の研究

発展させたとのことです.外山先生一言研究を変えた,のかな.

 

そこでin vivoでのself-paced movement中の運動神経活動を調べるための,流れ作業的な行程化を考案.これはすごい考えだと思います.

 

篠本:「これはすごい.特許とっとけばよい」

金子:「下品だなあ(笑)」

礒村:「実は,,,出願中です(笑)」

 

このレーニン行程の流れ作業化によって,高度Juxtacellular recording大量実現することを可能にし,その結果in vivo 神経活動記録するだけではなく細胞位置細胞タイプの同定をほぼ完全なものにされました.

今回皮質内情処理layer by layerではない,という結論を得るに至っておられますが,この研究方法開拓は,さらに多くの成果を導き出すに違いありません.

脳セミのアナウンスが遅れていることを指摘されたSさんには並々ならぬ意欲を感じたので,良い質問をするかと期待していましたが,

Sさん:「私は勉強熱心なだけですから質問はしません。」...確かに質問されませんでした.

 

アフターセミナーにては,外山先生内容には大きく満足されながらも「話し方がbottom up的だから,黙ってきいていられない」と話し方指南

外山:「bottom upはいつまで経ってもbottom upで終わる」

金子:「"bottom bottom"ですね.いや"bottom down"かな」

礒村:「今日はいいです...先生さえ楽しければ」

 

今日の外山名言

10年経ってみると,大部研究は,わかっても意味のないようなことをやっている」

 

しかし礒村さんの研究10年経っても,きっとしっかり残っていますよ.