- 「脳のセミナー」
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- 第32回
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演者:池谷裕二氏(東京大学・薬学系研究科)
演題:「神経ネットワークのスパイク同期ダイナミクス─ 多ニューロンカルシウム画像法(fMCI)の有効性と限界
─」
日時:2007年10月30日(火)14:40−18:00
場所:京都大学医学研究科A棟103室
要旨:脳は多彩なニューロンの集合体です。神経生理学の研究では、単一ニューロンのみの挙動、あるいは逆に、ニューロンの個性が無視されたバルク反応を解析するという実験が多いように思います。このアプローチはもちろん有用な知見をもたらしはしますが、それだけでは神経ネットワークの機能を掘り下げることは難しいと私は考えています。多ニューロンCa2+画像法(functional multineuron
calcium
imaging:
fMCI)は、Ca2+蛍光指示薬を脳標本にバルク負荷し、各ニューロンの活動電位によって生じる[Ca2+]i上昇を蛍光シグナルとして捉える手法です。この原理は20年ほど前に提唱されていましたが、近年の光学システムの進歩によって、一つひとつの細胞の個性を損なうことなく、大規模かつ安定な記録が可能となりました。これによって膨大なニューロンからなる神経ネットワークの活動パターンを詳細に解析することができるようになります。当日はfMCIの可能性と限界に触れながら、私たちの研究の最近の成果と目指す方向を紹介したいと思っています。
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「池谷さんの本は人が読みたくなるようにうまく書いてある.研究論文もキャッチーで注目を集める.どうやったらあんなに売れる本が書けるのか学びたい」という篠本による紹介.
若干37歳の池谷さんは,一般解説書も多数書いていますが,研究も精力的に推し進めています.Zn2+のイメージングに成功した池谷さんは,ニューヨークのYuste Labに留学,機能的多ニューロンCa2+画像法に着手.Scienceの “cortical
songs” 論文で一躍注目を集めています.
前半の内容:海馬歯状回2カ所の刺激によるCA1ニューロン活動を計測した結果,刺激のどちらか片方,AND,ORの反応に加えてXORの反応をするニューロンを見いだした,という報告.
篠本「CA3からCA1にかけて反応タイプの比率がどう変わるか,知りたい」
外山「そこまでやらないと『計算』というタイトルは羊頭狗肉だ.これくらいのデータでいろいろ言うのは無駄だね.理論をやるより実験をしなければいかん.ラットが先生ですから」
池谷「(ラットに)教えてもらいます」
Sさんは来ていましたが静か.
篠本「Sさん,何かしゃべらないといけないよ」
Sさん「ううう・・・」
外山「ああ,,,居たんだ」
Sさん「・・・」
前半の刺激実験の話には厳しいコメントが続きましたが,後半の自発発火の話は好評で池谷さんも勢いを盛り返しました.
外山「基本的アイデアはおもしろいと思うよ」
金子「前半はだめだったよね,でも自発発火はおもしろい」
いろいろ厳しいコメントもありましたが,池谷さんのエネルギッシュな研究,方向性に対する嗅覚のするどさには,感じ入りました.今後の発展が楽しみです.
久しぶりの脳のセミナーだったからか,アフターセミナーの皆の会話もエネルギッシュ.
外山「脳内の活動は内部構造が決める.Sさんも私も同じものをみている.ただ,その後の処理が違う」
Sさん「・・・同じものをみているだけで光栄です」
金子「本が売れている人に共通して見られることは,腰が低い,下手に出る,ということよ」
篠本「外山先生は下手に出ることはできないでしょ」
外山「下手に出ようとしたことがないだけだ.成績が悪いやつは,勉強ができないと決まったわけではない.勉強してないだけということもある」
外山「■さんは着実だが夢は売っていない.●さん,▲さんは夢は売っているが,ちょっとね.・・・ところで・・・池谷さんは自分の話をしないね」
皆「・・・(外山先生が話し詰めだから)できないですよお!」
今日の名言は以下の一言に尽きます.
外山「話をすることの極意は相手の脳をコントロールすることだ」
皆「ううう・・・」