--- 「脳のセミナー」 ---

--- 第26回 --------------------------------------------------

演者:設楽宗孝氏(筑波大学人間総合科学研究科)

題目:「モチベーションに基づく目標指向行動において計画の進行や報酬の期待はどのように脳内で表現されているか? 

−サルを用いた前部帯状皮質と腹側線条体の神経活動の解析−」

日時:2005年11月29日(火)14:40−18:00

場所:京都大学基礎物理学研究所(K206

概要:脳内には様々な行動をコントロールするための情報処理を行っていると考えられている領野があるが、これら領野間の神経繊維連絡を調べると、大脳皮質→大脳基底核→視床→大脳皮質、というループ回路がいくつかあり、また、それぞれのループ回路で機能的な違いがあることがわかってきている。このループ回路のうち、[前部帯状皮質→腹側線条体→腹側淡蒼球→視床背内側核→前部帯状皮質]というループ(辺縁系ループ)は、情動やモチベーションの上で重要な刺激に反応して行動を起こすときに働いているといわれているループである。また、腹側被蓋野から腹側線条体へ投射するドーパミンニューロン(DA)が、強化学習におけるエラーの情報を担う部分であろうと考えられている。我々は、最終的に報酬に到達するまでに複数回の試行が必要な課題である多試行報酬スケジュール課題をサルに用いてモチベーション・報酬期待の大きさの変化を観察し、この時のニューロン活動を、これまでの研究報告からモチベーションに深く関与しているのではないかと言われていた腹側線条体、及び、モチベーションに基づいた計画・行動の制御に重要な役割を担うことが予想される前部帯状皮質から記録した。

腹側線条体には短期的報酬に反応する神経活動の他に、スケジュールの進行の情報(特に、開始、継続)を持つと考えられる神経活動があった。一方、前部帯状皮質では、スケジュールが進行するにしたがって、反応強度が徐々に強まる、或いは弱まるニューロンが存在することがわかってきた。これらは、長期的報酬期待の情報を持つと考えられるが、更に詳しく調べると、まだもらえぬ報酬への期待或いはもらえないことへの失望・葛藤を表すと考えられるものと、報酬までの距離を表していると考えられるものがあることがわかってきた。また、強化学習理論との関連からは、前者が、報酬到達までに複数ステップがある場合の中間目標となる可能性が示唆された。

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外山先生による講演者紹介:「設楽さん(のこと)は・・・ほんとのこと言ってよく知らない(笑).タイトルがなぜこう長くなるかというと,そもそも行動制御,プランニング,モティベーションのどれかということがわかっていないからだよね」とまあ,いきなりズッコケ発言です.

 

恒例の「私の研究人生」;設楽さんは東大の生物の出身.「生命の神秘の謎を解く」という志で研究を始めたそうです.その後,産総研の河野さんのグループに入り,追跡眼球運動の研究を手がけ,NIHRichmondのところに留学.Richmondが無理矢理やらされた課題「モティベーションと報酬スケジュール」の下請けをやったのがこの研究の始まりだったそうです.

篠本:「モティベーションの無い『モティベーション研究』だったんですね」

 

外山:「なぜこういうタスクにしたかという『心』を説明せよ」

篠本:「このタスクってサルにとってどこが大変なんですか?」

河野:「サルが飽きちゃうんだよね.飽きることとの戦い(笑)」

 

理論モデルの研究は不評でした.外山先生のみならず池田さんも厳しくコメント.

設楽さんは始終「ええ,ええ,そうですね・・・ええ,そうです・・・ええ」

 

モデルはさておいて,報酬期待のニューロン反応の現象は意外で,とても面白いと思います.

今回はセミナー以上にアフターセミナーが盛り上がりました.

Sさん:「篠本さんは(悪いことをやる)実行力は無いね.」

外山:「下劣なモティベーションはあるが『行動選択』が出来ない.最後の良心が残っていると言ってやっても良いかもしれないが,.」

 

脳のセミナーはもう5年経っているのに,まだ2巡目がやってきていない.ぼちぼち2巡目をやったらどうか,という話が出ました.

外山:「Sさん,2回目やったらどうだ?」

Sさん:「脳のセミナーで2度しゃべる人いませんよ! 2度しゃべったら全国の笑いものになる!」

セミナーをやろうがやるまいが,Sさんはウェブに毎回登場しています.