--- 第19回 --------------------------------------------------
演者:川人光男氏(ATR脳情報研究所)
題目:「計算モデルに基づくイメージング研究」
日時:2004年6月29日(火)午後 2:30-6:00
場所:京都大学基礎物理学研究所・研究棟K206
人工的な機械を作れる程度に脳の働きを知るというのが私たちのモットーだが、手法としては、ヒューマノイドロボットを使うことと計算理論に基づくイメージング研究に特長がある。この両者が比較的よく絡み合った研究として、1.決定過程学習(強化学習)、2.外界予測と眼球運動(MST野モデル)、3.モザイクモデル(大脳小脳連関)、を紹介する。
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いうまでもなく,川人さんは計算論的神経科学の重鎮.ATR脳情報研究所では所長になられて,今後どのような研究活動を展開されるのか,その構想をうかがいました.
まずは川人さんのこれまでの人生について回想.塚原研助手時代4年間で神経生理学者のtheory of mindを学んだ.その後鈴木研助手を経てATR.小脳の生理モデル,フィードバック誤差学習に至る道について.現在はATR脳情報研究所所長で,計算理論,ヒューマノイドロボット,イメージング生理学,行動実験の4グループを率いる.
篠本:「smooth pursuitとocular following response,どう違うんでしたっけ?」
外山:「(昨年の脳のセミナーの)河野さんの説明をもう忘れたのか」
篠本:「ぼくだけわかっていないのではなくって,きっとみんなわかっていませんよお」
target velocity predictionを行っている部位があるという説:
川人:「心的な追跡covert pursuit
task に反応が強いのが44野です」(*)
金子:「いやそれは味覚野ですよ」
川人:「う...」(*)
外山:「ユニットレコーディングは都合の悪いものは捨てて好きなものを出せるがFMRIは隠せない.いずれにせよcovertというのはトリッキーだ」
(*)これは後になって,実験者が誤って古いデータを用いて解析を進めていたことによるミスであることがわかりました.
新しく解析しなおしたところ44野の活動はみられなかったとのことです.
後に川人さん曰く「論文にする前に脳のセミナーで議論してもらっていて本当によかった.あの会は本当に実のある会ですね」(**)
(**)奈良先端大の川脇大さんによると,この内容のうち,外界予測と眼球運動(MST野モデル)に関係する論文(***)が出たそうです.2006/02/24記.
Kawawaki, D., Shibata, T., Goda, N., Doya, K., and Kawato, M.
(2006) Neuroscience Research, 54(2), 112-123.
Anterior and superior lateral occipito-temporal cortex responsible for target
motion prediction during overt and covert visual pursuit.
(***)この論文はNeuroscience ResearchのBest Paper Awardを受賞したとのことです.「セミナーで恥をかいても,猛省して研究に励めば,それが結局は人生の幸せにつながる」との川人さんの言です.川脇さん,おめでとうございます! 2007/09/28記.
尾状核:報酬予測と報酬予測誤差をコードした部位がきれいに分かれたけど,満足がいかない様子.岡田さん組も理研から大挙してやってきました.
今回の川人さんはいつもとは違って妙に内省的.アフターセミナーでは
川人:「Hさんがね.プロ意識に目覚めたっていってね.タマネギの皮をむくように(小出しにたくさん論文を書く)研究をするって」
金子:「タマネギって芯がないよ」
外山:「ホームランをねらわなくっちゃいけない.川人さんはambitiousだから,それでいいんだ」
川人:「自分はたくさんのことを盛り込もうとしすぎる.理論家が実験するとambitiousすぎてoptimisticすぎるんですよ」
外山:「ambitiousでoptimisticというのはどうしようもないね.理論がわからない人が納得する実験じゃなきゃだめだ」