第4回数理モデリングカフェ (2024/9/29)

スピーカー: 池上 高志氏(東京大学大学院 総合文化研究科 教授)

タイトル: 生命的なシステムとは?

アブストラクト:私のやってきたArtificial lifeの研究は、生命性を取り込んだモデル、システムを構築することです。それに向けて、昔は多くのコンピュータ実験を、15年ほど前からは、実験やロボット実験を行ってきました。ホームページ を参照のこと。今回は、前半の代表的な研究、ホメオカオスや、キーストーン種のはなし、後半では、油滴の実験、ミツバチやテトラヒメナ、アミメアリの実験、アンドロイドの実験について、重要点を抜き出して話してみます。

開催報告: 数理モデリングカフェ 第4回では、池上 高志先生に生命的なシステムを作る研究について紹介していただきました。今回は約 80名 (Zoom 参加含む) の方々に参加いただきました。 当初は 145分 × 2 コマの講演資料を準備いただいたようなのですが、泣く泣く 45 分 × 2 コマ程度に圧縮してお話いただきました (笑)。

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図1: 熱い講演の様子

はじめに 「ブルックスのジュースは何か」 という問題提起がありました。ブルックス (ロドニー・ブルックス) は掃除ロボット (ルンバ) を開発した iRobot社を創業したことでも有名な研究者です。ルンバのように最近のロボットは性能的には生命システムに近づいたように見えるが、生命システムと呼ぶには何かが足りないように見える。ロボットに「ブルックスのジュース」を振りかければ生命システムのように生き生きと動き出すとすれば、ブルックスのジュースとは何だろうか?、というのが池上先生の研究動機の1つだそうです。
講演前半では、前期の研究として、力学系やセルオートマトンなどの数理モデルを使って生命的なシステムを作り、生命システムの背後にある原理に迫る研究について紹介していただきました。ホメオカオスという、小自由度系ではみられないような安定性を持つカオスを生み出す数理モデルについての研究 (Kaneko and Ikegami, 1992) や、テープ, それを読み取る機械, ノイズという DNA を模倣したシンプルな要素からなるセルオートマトンから cyclicな反応構造を生み出すことができることを示した研究 (Ikegami and Hashimoto, 1995) を紹介いただきました。後者の研究は生命システムの理論的観点から興味深いものですが、この研究がきっかけとなってノイズミュージックのアーティストとの交流も始まったそうです。数理モデル研究がアーティストにもインスパイアを与えうるということは印象に残りました。 2010年頃に Massive Data Flaw (ビッグデータ処理による自己組織化) の波が押せよせる中、池上先生は、多量のデータを眺めること自体が 「リアルではないか」と感じるようになったそうです。Massive Data Flaw のインパクトや数理モデルはこれから必要になるのかなどについて議論があった後、ひとまず休憩となりました。熱い議論に参加できるのは対面参加の特権です。数理モデリングカフェへの対面参加をぜひ検討してみてください。
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図2: Massive Data Flow

後半では、Massive Data Flawの流れを受けて、ミツバチやテトラヒメナ (微生物) の生物の集団運動の実データを分析して、何が起きているかを調べた研究 (ミツバチ: Doi et al. 2018, テトラヒメナ: Kojima et al. 2024)、群れモデルのシミュレーション規模を大きくすると何が生まれるのかを調べた研究 (Ikegami et al. 2017) を紹介いただきました。特に、ビッグデータからミツバチの分業に迫る研究は興味深かったです。
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図3: ミツバチ(左), テトラヒメナ(右)の群れを調べる

最後には、アンドロイド (人型ロボット) を使った最新の研究 (Yoshida et al. 2023) を紹介いただきました。大規模言語モデル (LLM) を使うと人間らしくアンドロイドを動かすことができることを実証した研究で、改めて、LLM の力強さを痛感させられました。
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図4: アンドロイドにメタル音楽を演奏したふりをさせる

今回の数理モデリングカフェは、数理モデル, ビッグデータ, ロボット実験, LLM と多様なアプローチで「生命的なシステムとは何か?」という問いに迫る、刺激的な講演になりました。 池上先生、ありがとうございました。参加者の皆様もありがとうございました。 Group

オーガナイザー: 小林 亮太 (東大)、篠本 滋 (ATR)