第3回数理モデリングカフェ (2023/6/16)

スピーカー: 引原隆士 氏(京都大学 大学院工学研究科 教授)

タイトル: 電力と情報の融合が生み出すフロー:パワープロセッシング ー非線形問題との遭遇の原点に立ち返ってー

アブストラクト:Norbert Wiener の著書である Nonlinear Problems in Random Theory は多くの研究者に刺激を与えてくれる書物である。講演者には特に、エネルギーと情報に対する平等な視点の提示があり、それが Claude Shannon の論文等の中にも見いだされることに長い間引っかかっていた。電気工学の創始にも関わる古典的分野である電力工学の発展において、発電機の挙動の同期状態への縮約が、明らかにネットワークにおけるこの視点を排除してしまったとも言える。ここでこの視点の原点に立ち返り、力学的制約を排除した上でエネルギーと情報を同時に考えるとき、どのようなシステム設計の可能性があり得るかについて改めて考察してみたい。本内容は、2020年11月に行われた篠本先生のご退職記念シンポジウムで触れたテーマに関して、その根源的な問を再考するものである。さらに、一研究者としてこれまでに得た知見をどのようにアカデミアに還元していくか、あるいは社会に還元していくかという観点で、この10年以上行ってきたの活動へのつながりに触れることができれば幸いである。

開催報告: 数理モデリングカフェ 第3回のスピーカーは、引原隆士先生にお願いしました。新型コロナウィルス感染拡大の影響で3年半以上のブランクが空きましたが、ようやく再開できました。今回は35名 (Zoom 参加含む) の方々に参加いただきました。

前半は、電気工学に関連する非線形問題に関する研究を紹介いただきました。理論的な研究に興味を持った引原先生は、初めて物理現象としてのカオスを発見したことで有名な上田睆亮先生の研究室で、アナログコンピュータを使ったダフィング方程式についての理論的研究で研究人生をスタートされました。下の図は、力学系で見られる複雑な現象を初めて「カオス」と呼び、リー・ヨークの定理でも有名なヨーク先生 (中央) にアナログコンピュータを使ったデモをする引原先生 (右) です。
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次に、電力システムの数理モデリングについて紹介いただきました。ダフィング方程式の起源を考察すると、Nicola Tesla のモーターに行き着くそうです(下図参照)。Nicola Tesla は 1883年に、現在のネットワーク化された電力システムを特許で想定していたということには驚かされました。 Group
ネットワーク化した電力システムを数理モデル化し、その方程式を分析することで、一斉に位相スリップする現象 (ステップアウト) を再現することを発見されたそうです (Susuki, Mezic, and Hikihara, CDC, 2008)。結合振動子モデルの専門家も参加していたので、質疑も盛り上がりました。
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後半では、新しい電力システム設計についての研究を紹介いただきました。前半で紹介いただいた研究は理論的には興味深いものでした。しかし、引原先生は「これは電力技術を研究しているのか?」と思い立ち、新しい研究をはじめたそうです。Shannon-Weaver による通信モデルを電力送信の問題に適用するという斬新なアイデア (電力のパケット化) を紹介いただきました (Nawata, Maki, and Hikihara, Prod R Soc A, 2018)。
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そして、このアイデアが実装可能であることを、さまざまな制御の問題に応用することで実証した研究 (SIPプロジェクトの成果) が紹介されました。
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最後に、参加者へのメッセージをしていただきました。私も、研究を始めたころに感じた素朴な疑問、困難、失敗を大切にして研究を進めていきたいと思いました。
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研究内容はもちろんですが、引原先生の研究哲学からも大きな刺激を受けたカフェになりました。引原先生、ありがとうございました。また、参加者の皆様、ありがとうございました。 Group

オーガナイザー: 小林 亮太、中尾 裕也 (東工大)、篠本 滋 (ATR)

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